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アカデミー賞ノミネートの時期になると、宣伝のためにユニオンのメンバー宛にこうした視聴用のCD(スクリーナー, screener)がドッと送られて来る。最も最近ではネット配信先で見るように形態が変わりつつあるが(だって、もうCDプレーヤー捨ててしまったので、改めて買いに行きました)
映画のジャンルの中でモキュメンタリー(mockumentary)とドキュドラマ(docudrama)というのがある。モキュメンタリーは、全くのフィクションの話をドキュメンタリー風にアレンジされ、時によっては「えっ、ホント?」と思ってしまうほどリアルに仕上げたもの。これは英語の造語で、 モック(mock)という「類似、偽物」を意味する単語と、ドキュメンタリー (documentary) をくっつけたもの。例を上げれば、その昔のオーソンウェルズを一躍有名にした「宇宙戦争」や、「ブレア ウィッチ プロジェクト」など。見ていて、余りのリアルさにドキュメンタリーと勘違いして、こんなことが本当にあったんだと信じ込んでしまうことだってあり得る。
一方、ドキュドラマは、実際にあったこと(ドキュメント)を題材にして、しかし色々脚色したもの。この言葉も造語で、ドキュメンタリー(documentary)とドラマ(drama)をくっつけたもの。最近では、映画のオープニングシーンや、宣伝のキャッチフレーズに、「この物語は実際にあった出来事を元にしています(Based on the actual story)」とか、「本当に起こった出来事からインスピレーションを得ています( Inspired by a true story)」とかいうものが随分目に付く。私が前にやった仕事の「ブロンド(Blonde))もこのドキュドラマの一つ。マリリン モンローの人生を描いた映画だから、彼女が出演した数々の映画の場面も出てくるし(オリジナルの昔の映画シーンの写真を見てセットを作り直したのだけれど)、彼女の公私に渡っての色々な場面も出てくる。しかし、ニュース、雑誌、本などの記録を調べてみても謎の部分が有るのは当然。それに加えて脚本家が描きたい彼女のイメージ、監督が描きたい彼女のイメージ、そして伝えたい映画のメッセージもあり、色々な方向からどんどん脚色されていく。こうして、結論から言えば、全くのドキュメンタリー映画を作っている訳ではないので、観客が楽しめる内容の娯楽ドキュドラマが出来上がる。でも、何はともあれ、やはり実際にあった話を元にしているから、かなりの説得力もあって面白い。
11月以降、今年のオスカー候補に上がりたいと今は大作映画が目白押しの季節だが、ここでも、ドキュドラマが盛り沢山。いくつかを例に挙げると。。。
「Richard Jewel(原題:リチャード ジュエル)」は、クリント イーストウッド監督の作品で、アトランタ オリンピックで起こったテロ爆発事件で多数の人命を救ったチャールズ ジュエルが、その後メディアによってテロ犯人と決めつけられ、一生を台無しにされた話。
「Harriet(原題:ハリエット)」は奴隷解放時代に実在した、解放のために戦った神がかり的なスーパーヒーローのような黒人女性の話。
「Dark Waters(原題:ダーク ウオーター)」は有害なテフロン加工で悪名高いデュポン社に立ち向かうこととなった弁護士と被害者の話。
「Rocket Man(原題:ロケットマン)」は言わずと知れた大ミュージシャン、エルトン ジョンの話。
「Hustlers(原題:ハスラーズ)」はリーマン ショックの最中にウオール ストリートの守銭奴達を逆手にとって金を巻き上げたストリッパー達の話。歌手でもあるジェイ ローことジェニファー ロペスがストリッパーを熱演。
「A Hidden Life (原題:ヒデン ライフ)」は、第二次世界大戦中のオーストリアの農夫がナチス、ヒットラーに賛同できず、意思を貫き通したが代償に処刑されてしまうという話。
「 The Irishman(原題:アイリッシュマン )」は巨匠マーティン スコセーシが大俳優のロバート デニーロ、アル パチーノ、ジョー ペシー、ハーヴィー カイテルなどを駆使してユニオン(組合)の長、ホッファが誘拐(殺された)事件を巡ってのギャングと組合員達の話。これは3時間半を超えるとんでも無い長編映画だが、時間を忘れてしまう程見応えがある。
「The Report (原題:ザ レポート)」は、ブッシュ大統領(息子の方)のイラク戦争で起こったアメリカによるイラク兵士の拷問問題を巡っての政治ドラマ。
この他にも「1917」(第一次大戦中の兵士の話)、「The Two Popes (原題:二人の法王)」等々、今年は面白い映画が随分出ている。
こうしたドキュドラマはどれをとっても、事実に基づいているだけあって面白いストーリーだ が、やはり「実際にあったこと」を唯並べていくこと「観客を最後まで惹きつけるようにストーリーを展開していく」こととはなかなか一致しない。だからいろいろな脚色が起こってきて。。。どこまでがホントなのと思いたくなるような場面も時としてある。
映画を作る側からすれば、「映画、テレビはあくまでも『娯楽作品』であって、『教育作品』ではないのだから、脚色しても構わないし、エンタメには必要なことだ。アーティストとしての『表現の自由』」だ」と言う事になる。しかし、その中には、露骨に観客の受けの良いように話を持って行ったり、目指すマーケット(主に中国です!)で興行成績を上げるために色々工作してみたり。例えばの話、話に出てくるくるロケットはアメリカ製でも日本製でもなく、中国製にして中国語の標識をセットにベタベタ貼り付けるとか(ああ、その昔は日本語の標識だった!)、主人公が中国の管制塔と話をするとか。ま、これも時代の流れか。。。
とここまで書いてくると、もう何がホントなのかと言う事になって、なんだかトランプ大統領お気に入り文句の「フェイク ニュース」を考えてしまった。
「フェイク ニュース」とは、モキュメンタリーでもドキュドラマでも無く、故意に嘘(フェイク)の情報を、あたかも事実のように実しやかに流して、視聴者/読者の意見を自分の方へコントロールしようとするデマのこと。こうしたフェイク ニュースを見抜く力をつけて、デマに引っかかるのを避けたいものだが、それはそんなに簡単なことではない。そして、それよりも一番怖いのは、本当のニュースに対しても誰かが故意に「これはフェイク ニュースだ〜!」とも何度も何度も執拗に言い続けると、いずれは多数の人間が段々に自信を失ってきて「あんなにフェイクだと言ってるんだから、もしかしてやっぱり、嘘なんじゃないの?」と 、もう何も信じられなくなってしまうこと。こうなったらもう「フェイク ニュースだあ〜!」とフェイクを流した者の勝ち。。。
大分話が逸れたが、ドキュドラマ映画のパワーは、やはり事実のストーリーが有ると言うことで、良くも悪くも、そこに描かれたことは観客に対しての影響力は多大だなあと思う。
さて最後に、アカデミー候補の映画の中には、本当にオリジナルで素晴らしい映画もしっかりあります。「Jojo Rabbit (原題:ジョー ジョー ラビット)」(私の一番のお気に入り。笑いながらゾッとするような場面多数)や 「Marriage Story (原題:マリッジ ストーリー)」(これも気に入ってる。とってもリアルで笑い、泣ける)、「Queen & Slim(原題:クイーン アンド スリム)」(なんか「ボニーとクライド」の黒人版みたいだが、現実彼らが今だに直面している人種差別がよく描かれている)など。
