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卒業式といえば、日本では毎年3月だが、アメリカでは4学期全てが終わる6月が卒業式ラッシュとなる。これはコメンスメント(Commencement)と言って各大学はこぞって有名人、 知識人、映画やテレビスターのセレブ達に、卒業式辞のspeech(コメンスメント スピーチまたはアドレスと言う)の講演者を依頼する。
勿論、これから社会へ旅立って行く若者達に向けての式辞は「頑張れ!君達には明日がある〜!」と言う激励タイプがほとんどだが、こんな中でも何年経った今でも卒業生だけでなく、年齢を超えて様々な人たちに感銘を与えて「伝説」と呼ばれる、大変有名な式辞がある。それは、かのアップルコンピューターで世界中にインパクトを与えた故スティーブ ジョブズ氏が2005年に超一流大学として冠たるカリフォルニア州スタンフォード大学で行なったスピーチ。このスピーチは今でも心から感動する内容だ。ジョブズ氏が実際に生きて来たビジネスの世界での戦い、葛藤、挫折、そして成功など、世界中が彼の生き方を知っていたその本人が、これから社会へ旅立つ卒業生に直接送るメッセージには本当に心を打たれるし、「よし、やるぞ〜!」と言う気を起こしてくれる。
さて、その彼がスピーチの最後に結んだ言葉が上述の「Stay hungry, Stay foolish!」これを先日、長年シリコンバレーで頑張っているベンチャーキャピタリストの友人と(日本人です!)メールで話すことがあった。彼曰く「意訳すると、『常に求めよ、決して分かった気になるな!』だね。」これには私も全く同感で、やはりシリコンバレーで戦い、生き残って来た人の言うことで、核心をついているなあと思った。とそこへまた別のやはり自分で会社を経営して長年頑張っている友人から、「いやあ、ホント?英語音痴の私はそんなこととは知らなかった。簡単に『腹ペコでいろ、アホでいろ!』 だと思ってた〜!」とメールして来て大笑い。
これについては最初の友人曰く、「訳は合ってるし、それを読んだ人がどう取るかだね。」これを聞いて私も、「なるほどね〜、面白い直訳だけど、ハズレてはいないし。。。まあ私だったら簡単に『求めよ、奢るな!』とでも訳すかなと思った。
それにしても、英語を日本語に訳すことの難しさ、その言葉の背景にあることをどこまで理解、体験しているかで、受け取り方も違ってくるだろうと言うことも改めて考えた。しかし、何はともあれ、ジョブズ氏の行き方は世界中が知っているのだから、彼の言葉の意味は、訳はどうあれ、伝わることだとも思う。
と言うわけで、卒業、そして新社会人に贈る言葉などを考える機会となったのだが。。。とにかく、このジョブズ氏の言葉はハリウッドビジネスでも十分通用する。つまり、ハングリーであること。本当に映画の仕事がしたかったら、ちょっとやそっとで挫折しても、目的達成するまで頑張るしか無い。自分の考えを誰も取り合わずに「そんなのやめとけ、アホ!」と一笑されようと、本当にこれはいいと信じているなら、誰に何を言われようと、アホの如く突き進んで、(上手くいけば)認めてもらえるかもしれない。また、たとえめでたく仕事が成功したからといっても、そこでウハウハ喜んでいるだけだったらその後の進化も無く、後から来る人達に踏みつけられて絶滅。
まあ、こんなに毎日が血みどろな戦いとは言わないが(笑)、これからハリウッドに挑戦しようと言う人たちを最近身近に見てきてそう思った。
と言うのも、ひょんなことから、ハリウッド街の側にあるAFI(American Film Institute: アメリカンフィルムインスティチュート)でデザインを教えることになり、この6月に生まれて初めて卒業生を送り出すことになったからだ。AFIの課程は大学の修士課程に当たり、過去にも多数の監督、ライター、デザイナーなどを輩出している、地元では知られた学校。クラスは例年になく小ぶりの総勢7名だったが、内訳はアメリカ人、プエルトリコ人、メキシコ人、中国人という国際色豊かなクラス。私は自分の試してみたい事を彼らに色々実験してみて、彼らの反応がとても面白かった。彼らにはまだ実社会の知識、経験がほとんど無いと言うことをよく忘れてしまい、いつもの自分が仕事している調子で生徒達に色々注文をつけていたら、どうも「厳しい教授」と評判を取ったらしいが、同時に「先生というだけじゃなくて、自分のメンターだと思っている」とまで言ってくれた生徒もいてビックリ 。
と言う訳で、この生徒たちがもうすぐ卒業して行くのにあたり、お祝いに卒業式辞とは言わないが、私の贈る言葉(というより、「ハリウッド生き残りのアドバイス」)を作ってノートに貼って一人一人に贈った 。正直、言いたい放題書いて、自分で書きながら笑ったのだが、それを読んだ生徒たちが全員、このノートに記念にサインして欲しいと言ってきたのにはまた笑った。
でも、私の書いたことは自分のキャリア(そして友達のキャリア)を通して学んだ本当の事だし、とにかく私もかなりの時間とエネルギーを費やして教えた生徒達なので、なんとかどこかで生き残って欲しいと願っている。考えれば、一生懸命彼らに教えて、究極的には、将来の自分の競争相手を育成していた訳だが、まあそれもいいか。いつか彼らと一緒に仕事をすることになるのかも知れない。それは楽しみだと思う。
