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今年もまたアカデミー賞の日となった。もう随分前からだが、アカデミー賞にノミネートされる確率を上げるために、どのスタジオや配給会社も、「大作」映画や「社会派」映画は10月末のハローウィーンが終る頃までわざわざ待って公開するのがトレンド。これは、観客が映画のことを記憶している期間がとても短いので、ノミネート直前に見せた方が評判も新しく、ノミネートされる確率が高いと読んでいるためなのだ。
と言うわけで、今年もハローウィーンの後から、大砲を撃ってきたように次から次へといわゆる「大作」映画が公開された。が。。。私には、今年はどうも「これは凄い!」と言う作品が余り無かったと感じる。これは私だけの意見かと思って他の美術部の友達にも聞いてみたが、大半が同じ意見だった。もっとも、ハローウィーンよりかなり前に公開され、忘れられたら勿体無いなあと思っていた作品のいくつかが生き残ってノミネートされたのは嬉しかった(スパイク リー監督の問題作「ブラック クランズマン」と、アニメの「犬が島」)
さて。。。仲間内で意見が一致したことの一つには、「何で 『ブラックパンサー』が美術賞にノミネートされたの?」と言う点だった。はい、かの全米で超興行収入をあげた、マーベルコミックの放った大作映画です。この疑問は このビジネスで長年仕事してきた人達に聞くほどそうだった。勿論、あの映画が大好きだと言う人も大勢いるだろうし、デザインは素晴らしかったと言う人もいるだろう。 あの映画は「黒人(今では『アフリカン アメリカン』というのが政治的に正しい言い方)主役で黒人の黒人による黒人映画で大ヒットした最初の作品」として一躍有名になった。
今年のアカデミー賞は又しても黒人アーチスト達を無視したノミネートだったと批判されているから、見方によっては、「高収入を上げた『ブラックパンサー』を入れて、 『アカデミー協会は差別をしていない!』ということの証にしておこう」という目的に使われて、ラッキーにもノミネートされたのだろうという見方もある。
『ブラックパンサー』で実際に美術監督(黒人の女性)と毎日一緒に仕事をした人達から仕事場がどんな環境だったかも聞いた(まあかなり大変だったようです、お疲れ様)。私と仲間の意見では。。。「あのデザインはねえ〜、う〜ん、ちょっと〜。。。」で始まり、「ノミネートされてしかるべき素晴らしいデザイナー達による素晴らしいデザインの映画は他にもあったのに、なんでこれが〜?」が大方の意見だった。もっとも、私の所属するアートディレクターズギルド(略してADG)の今年のファンタジー映画部門では『ブラックパンサー』はADG美術賞を獲得したので、私達は少数派だろうけれど。(笑)
さて、これに対して、心から喜べる部門もあった。アニメーション映画部門。ここでアニメの「スパイダー マン」を監督したピーター ラムゼイがノミネートされた(受賞することを願っています!)。なんと彼も黒人で、「黒人監督がアニメ部門でノミネートされたのはこれまたアカデミー史上初めて」とのことで、話題性は増すが、何より作品自体が大好評だった。ピーターは私の何十年来の友人エリック(彼も凄腕のアーティスト)のお兄さんにあたり、その関係もあって随分昔から友達同士。 彼がその昔にストーリーボード アーティストだった頃に同じ美術部で仕事を一緒にしたこともある。その彼が、長年の夢だった監督になることを実現し、ここ10年来メキメキ頭角を現して来ていた。そして彼の素晴らしい才能、人間関係における対人能力の素晴らしさ、 某国大統領のように「全て俺がやったんだ〜!」などと決して言わない尊敬できる人柄もあって、周りから慕われている。アニメ 「スパイダー マン」自体が素晴らしい出来で、監督としての実力を認められてノミネートされたことを喜ぶと共に、彼の長年の努力が評価されての当然のノミネートだと、私も、美術部の友達も全てが「昔の仲間のノミネート」に心から納得だった。これは「黒人だったからノミネートされた」のでは無く、「実力でノミネートされた人がたまたま黒人だった」という例。
なにはともあれ、アカデミー賞発表まであと数時間。お楽しみに!
