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犬が宿題食べちゃいました〜!を書いてから、自分がこのハリウッドで始めた頃はどうだったかと考えてみた。まあ、ミレニアルのように鼻持ちならないいい加減なやつではなかったとは言えるが、反面、 ミレニアル世代の持つあの自己チューな態度があったら、私のキャリアも違うように展開していたかもしれないなあと笑った。 それにしても、アメリカという国は、とにかく良くも悪くも自己主張を必要とするカルチャーで、 シンドイと思うことは山程あった。今ではもう大分慣れているが(笑)。ハリウッドに居るとどんどん図太くなる。
例えばの話。。。テニスを例にとってみよう(アメリカでの話)。貴方は結構うまくプレーできるとして、ある日、誰かが貴方と一緒にテニスをしたくてやって来た。そして何と、「あなた、テニス上手いの?(Are you good?) )と聞いてくる。 日本式に言えばその質問に意表を突かれるだろうし、たとえ貴方は結構上手かったとしても謙遜するのが美徳だから、「うん、まあまあですよ。いや、それほどでも無いかな、へへへ」と何ともはっきりしない答えをするだろう。ここでもし、「そう、私ってすごいんだよ〜! 貴方はどうなの?上手いの?」などと言ったら 自慢たらたらの傲慢なヤツと取られてしまうだろうから。しかし。。。。この日本式の「謙虚さ」がエンタメ ビジネスに通用するかと言うと。。。。。しない!
と言うのも、このビジネスは、とにかく「映画の、テレビの仕事がした〜い!」と言って、アメリカ中、いや世界中から人が集まるわけで、その誰もが仕事を見つけるために自分のアピールで必死なビジネスだ。そんな中にいて、「実力は見ればわかってくれるだろう」などと言わば人任せに思って「いえ、私、まあそこそこです。。。」なんて謙遜していた日には、「ああそう、じゃあ次の人どうぞ〜!」と簡単にチャンスを逃して終わってしまう。しかしだからと言って、「いやあ、私ってホントに才能あって、すごいデザイナーでね〜!」なんて言えば表面はニコニコしてくれても「ああそう、よかったねー(でもどうせそんなのハッタリでしょ!)」 と、これまた本人が去った後でみんなに呆れられる(目で上を見上げて、「オーマーガー!」とか「オー、ジーザス!」とか言うのが、アメリカ式の「呆れた〜!」の表現。ロスのエンタメ業界人達は本人の居なくなった後で色々言う人が多い(笑)。話は逸れるが、これがニューヨークだと、本人に面と向かってズケズケと言いう上、彼らはそのドギツイ正直さを誇りとしている。)
ではどうしたらいいのか?この質問自体私に取っても試行錯誤だった。「いえ、それほどでも。。。」とは言えないとは分かったものの、されど「いや、すごいんだよ〜、任しといてよ、ワッハッハ!」と言ってみても、どこまで本気に取って貰えるのかも疑問。また、ハッタリきかしたところで、それを裏付けるだけの力(フォローアップ力)がホントにあるのかどうか内心汗ダクダクで、それがなければ化けの皮はスグ剥がれてしまう。でも結論から言うなら、そう言う自分を試される状況に面したら、自分の力を信じて、「はい、できます!」と言っちゃう事である(笑)!と言うのも、質問してくる人も往々にして、「はい、できます!」と言う自信ある答えが聞きたいのだし、質問者自身も内心は「この仕事、一体どうしたらいいんだろう?」と心配しているのかもしれない。だから、そう言う状況に当たって、「大丈夫、私がサポートしてあげます。やり遂げます!」と言う答えを聞けば、それは嬉しい。
さて、ではその大見得切ったハッタリがめでたく効いて、なんとホントにその仕事が取れてしまったらどうするか(笑)。そこまで来たら、もう後は必死になって自分でリサーチするなり、徹夜で勉強するなり、できる友達に電話やメールしまくって助けを求めるなり、とにかくなりフリ構わず仕事を全うするしかない。もしできなきゃクビだからね。あるいは化けの皮が剥がれる前にめでたく仕事を終わらせてタイミング良く去る(笑)。そうやって頑張った友達がたくさんいるし、反面ハッタリはうまいがフォローアップができずに失速していった人達も見てきた。勿体無いね。
まあ、そこまで自分を追い詰めれば、人間馬鹿力が出るもので、物事なんとか肩付くものです。これは私の経験からも言える(笑)。
思えばその昔。。。。まだコンピューターが現場で使われ始めたばかりのコンピューター黎明期だった頃で、映画「ポーラーエクスプレス」をやった時のこと。映画の製作はもう数ヶ月前から始まっていたと噂に聞いた。私は当時少しでもコンピューターの仕事をしたくて、仕事の合間にクラスを取っていた。そんなある日、美術部から電話がかかってきて、「MAYA(マヤというソフト)のできるセットデザイナーを探しているが、できるか?」と言われた。丁度私はMAYAのクラスを取っている最中で、かろうじてプログラムを操れるところにいたが、まだ仕事で使ったことはなかった。しかし。。。どうしても「ポーラーエクスプレス」で仕事がしたかったので、半ばもうハッタリで「はい、できます!(Sure, I can!)」と答えた。「じゃあ、明日来てください。」と言う訳で仕事が取れた。
この電話を切るなり、私はディズニーにいるMAYAの専門家の友達に電話。「どうしよう、MAYAできるって言っちゃったよ。うわ〜怖い〜!ヘルプしてくれる?」 友達は笑って、「良かったね、大丈夫、なんでもヘルプするから。いつでも電話していいよ!」と言ってくれて一安心。その夜は必死でマヤの復習。
というわけで、翌日自分のコンピューター一式を抱えて出勤した私(ハリウッドでは誰もコンピューターを用意してくれません。みんな自前です)。 内心はもう冷や汗タラタラ。だがもう後へ引く訳にはいかない、出来るって言っちゃったんだから。素知らぬ顔をしてコンピューターをセットアップして、さて仕事開始!。。。と思ったのもつかの間。与えられた建物ファイルが余りに重た過ぎて、私のマックは虹色マークの輪が回り続け。。。こんなファイルをハンドルするにはもっとパワフルなコンピューターじゃないとダメだ。正直、「もうクビだ〜!」と本気で思った。
幸い、「ポーラーエクスプレス」の美術監督は以前にもいくつか一緒に仕事をしたことのあるリック カーター氏(数々のスピルバーグの映画を担当。「リンカーン」でアカデミー美術賞も受賞)。もう「直訴」しかないと思った私は彼に直接話をした。「すみません!私のコンピューターじゃファイルをうまく扱えない。時間をください。最新のコンピューター特注してちゃんと仕事できるようにしますから。」 リックは笑って、「あなたがちゃんと仕事するのは知っているから、本当に(大枚はたいて)そうしたいなら僕はオーケーだ!」と言ってくれた。
さあそれからは、電話に飛びつき パソコンを特注で作ってくれる友達に「こう言うわけで、今すぐ新しいパソコンがいるの。これ、これ、これのソフト全部入れて、最高最速仕様ですぐ作ってくれる?」と打診。幸い彼は二つ返事で「オーケー、大丈夫、丁度週末になるから月曜日に間に合わせる!」
こうして、最短2日のオーダーで翌月曜日、彼ともう一人の友達二人が仕事場へ来てくれて、コンピューターを全取っ替え。仕事場ではプロが二人も来てセットアップしてくれているのにビックリ。私はラッキーだった、そんなサービスなんてありえなかったから。ところで私は、MAYAのソフトも初めてなら、なんとパソコン(PC)も初めて。正直それまでの私はマックしか知らず(当時はマックが落ち目の時代で、回りはみんなパソコンだった)。 これが今日からパソコン。だからパソコンのどこのボタンを押したらコンピューターがオンになるのかさえ知らなかった。
そんなとんでもない状況でも、とにかく新しいコンピューターは動き出し、あとはもう与えられたファイルを処理していくしかない。
今考えると、我ながらよくもまあやったもんだと思うし、毎日胃が痛くなるように緊張していたのも覚えている。しかし、あの時「はい、できます!(Sure, I can!)」と言ってしまったお陰で、結果として実力もついた。そしてまた少しシブトクなったのもあの頃だった(笑)。そしてクビにもならずに仕事を終わらせた。また同時に「もしクビになっても、自分に今現在出来る限りの事はした。それで足りなかったのなら、恥をかこうが何しようがまたもっと勉強するしかない。」と腹もくくった。
と言う訳で、「はい、できます!」は綱渡りもするがシブトクもなるの一例。あとで色々な友達にも聞いたところ、みんなそれぞれ似たような経験を経て来ていたと分かり、大笑い。みんな「いやあ、あの時はクビになるかと思ったけど、ハッタリ効かしてやっちゃったよ!」「うん、うん、俺も!」「私も!最初はそんなもんどうデザインするかの見当もつかなかったけどね!」だった。ハリウッドとはハッタリだらけの世界です(大笑)。だからみんなシブトイわけだ。
